ギフテッドのアンダーアチーブメント:研究でわかる原因と才能を伸ばすための国内外の支援策
ギフテッドの子供たちは、高い知的能力や特定の才能を持ちながらも、学業成績が振るわなかったり、持っている能力を十分に発揮できなかったりすることがあります。このような状態は「アンダーアチーブメント(Underachievement)」と呼ばれ、ギフテッド教育における重要な課題の一つとして国内外で研究が進められています。
この現象は、保護者の方々にとって大きな悩みとなることが多いものです。「なぜ、これほど能力があるはずなのに?」という疑問や、「どうすればこの子の可能性を伸ばせるのだろうか」という不安に直面することもあるでしょう。この記事では、ギフテッドの子供たちに見られるアンダーアチーブメントの定義、その背景にある可能性のある原因、そして国内外でどのような研究が進められ、どのような支援策が考えられているのかについて、信頼できる情報に基づいて解説します。
ギフテッドにおけるアンダーアチーブメントとは
アンダーアチーブメントとは一般的に、個人の潜在能力と実際の成果(特に学業成績)との間に大きな差がある状態を指します。ギフテッドの子供の場合、知能検査などで高い能力が示されているにもかかわらず、学校での成績が平均的であったり、それ以下であったり、あるいは学習意欲が低く、課題に取り組むことが難しいといった形で現れることがあります。
これは単なる「怠け」や「努力不足」として片付けられる問題ではありません。ギフテッドのアンダーアチーブメントには、子供を取り巻く複雑な要因が絡み合っていることが、多くの研究から明らかになっています。
アンダーアチーブメントの可能性のある原因
研究者たちは、ギフテッドのアンダーアチーブメントには様々な原因が考えられるとしています。これらはしばしば複合的に影響し合っています。
1. 内的な要因(子供自身に関わる要因)
- 完璧主義と失敗への恐れ: 非常に高い目標設定をしがちな一方で、失敗を過度に恐れるため、挑戦を避けたり、課題を完了できなかったりすることがあります。
- 興味の偏り: 特定の分野に強い関心を持つ一方で、学校の画一的なカリキュラムに興味を持てず、関連のない科目に全く意欲を示さないことがあります。
- 自己肯定感の低さ: 周囲との違いを感じたり、「期待に応えなければならない」というプレッシャーを感じたりすることで、自己肯定感が低下し、挑戦意欲を失うことがあります。
- 感覚過敏や特定の学習スタイル: 集団での一斉授業についていけなかったり、特定の形式での学習が苦手だったりすることがあります。
- 心理的な問題: 不安、抑うつ、あるいは他の発達障害(例: ASD, ADHD - いわゆる「ダブルローディング」)を併存している場合、それが学習困難の原因となることがあります。
2. 外的な要因(環境に関わる要因)
- 学校環境の不適合:
- 退屈: 授業内容が簡単すぎたり、進度が遅すぎたりすることで、知的好奇心が満たされず、退屈を感じて授業に集中できなくなることがあります。
- カリキュラムの柔軟性の欠如: 子供の能力や興味に合わせた学習内容やペースが提供されない場合、学習への意欲を失います。
- 同級生や教師との関係: 周囲との違いから孤立を感じたり、教師がギフテッドの特性を理解していなかったりする場合、学校に居場所を見つけられず、学習へのモチベーションが低下することがあります。
- 家庭環境: 過度な期待やプレッシャー、あるいは逆に無関心や適切なサポートの欠如が影響することもあります。
国内外の研究と支援策の動向
アンダーアチーブメントはギフテッド教育における国際的な課題であり、各国でその原因究明と対策に関する研究が進められています。
海外における取り組み
ギフテッド教育が進んでいる国々(例: アメリカ、カナダ、ヨーロッパの一部)では、アンダーアチーブメントの子供たちへの支援は重要な柱の一つとされています。
- 原因特定のための詳細なアセスメント: 学業成績だけでなく、認知能力、学習スタイル、興味、心理状態、家庭・学校環境など、多角的な視点からアンダーアチーブメントの原因を探るためのアセスメントが行われます。
- 個別教育計画(IEPやその類似のもの): 子供一人ひとりの特性やニーズに合わせて、学習内容、方法、評価、サポート体制などを具体的に定めた個別計画が作成され、学校と保護者、必要であれば専門家が連携して実行します。
- 柔軟な学習機会の提供:
- 内容の圧縮(Compactment):すでに理解している内容の学習時間を短縮し、より発展的な学習に時間を充てる。
- 促進(Acceleration):学年を飛び級したり、特定の教科だけ進んだクラスで学んだりする。
- 拡充(Enrichment):通常カリキュラムを超えた、深く掘り下げた学習機会やプロジェクトを提供する。
- 心理的なサポート: ギフテッドの子供の抱える完璧主義、不安、自己肯定感の問題などに対し、スクールカウンセラーや外部の心理専門家によるカウンセリングが提供されることがあります。
- 教師研修: ギフテッドの特性やアンダーアチーブメントに関する教師向けの研修が行われ、子供への理解と適切な対応を促進しています。
重要なのは、これらの対策が「一律」ではなく、子供の内的な要因と外的な要因の両面からアプローチし、個別のニーズに対応しようとしている点です。
日本国内の現状と課題
日本においても、ギフテッドの子供たちの存在や、アンダーアチーブメントの可能性についての認識は高まりつつあります。しかし、公教育における画一的なシステムや、ギフテッドに関する専門知識を持つ教員の不足などから、個別のニーズに応じた柔軟な対応はまだ十分とは言えません。
一部の私立学校やNPO法人などが、個別の才能を伸ばすプログラムや、アンダーアチーブメントの子供たちに寄り添った学習支援を提供しています。また、教育委員会によっては、特定の才能教育プログラムや相談窓口を設ける動きも見られます。
しかし、アンダーアチーブメントの原因を多角的にアセスメントし、それに基づいた個別の教育計画を公立学校で実施することは、制度的にも人員的にもまだ多くの課題があります。保護者が主体となって学校と連携し、外部の支援も活用しながら、子供にとって最適な環境を模索していく必要性が高い状況と言えます。
保護者ができること
アンダーアチーブメントに直面した際、保護者の方が家庭や学校との連携を通じてできることは少なくありません。
- 子供の特性とアンダーアチーブメントの背景にある原因を理解する: 単に成績が悪いという表面的な現象だけでなく、なぜそうなっているのか、子供の内面や置かれている環境に目を向けることが重要です。研究で示されている様々な原因の可能性を知っておくことは、子供への理解を深める助けとなります。
- 学校と積極的に連携する: 子供の学校での様子、興味関心、学習への取り組み方などを学校と共有し、連携して原因を探り、可能な範囲での環境調整やサポートについて話し合います。一方的な要求ではなく、学校のリソースや制約も理解した上で、協力的な姿勢で臨むことが大切です。
- 家庭を安心できる場所にする: 学業成績だけでなく、子供の興味関心や努力、非認知能力(粘り強さ、好奇心、協調性など)を認め、肯定的に評価します。失敗しても大丈夫だというメッセージを伝え、挑戦を後押しする環境を作ります。
- 子供の強い興味・関心をサポートする: 学校の勉強とは別に、子供が夢中になれる活動や学びの機会(図書館、博物館、オンライン講座、習い事など)を提供し、知的な刺激と達成感を得られるように支援します。これが自信につながり、学校の学習への意欲に波及することもあります。
- 必要に応じて専門家の助けを求める: 心理的な問題が疑われる場合や、学校だけでの対応が難しい場合は、臨床心理士、精神科医、発達支援の専門家、ギフテッド教育に詳しいコンサルタントなどに相談することも有効です。
- 保護者同士の情報交換やサポート: 同じような悩みを持つ保護者同士で情報交換をしたり、経験を共有したりすることは、孤立感を和らげ、新たな視点や具体的なヒントを得る上で非常に役立ちます。
まとめ
ギフテッドのアンダーアチーブメントは、子供の高い潜在能力が様々な要因によって十分に発揮されない複雑な問題です。単一の原因によるものではなく、子供の内的な特性と外的な環境が相互に影響し合って生じることが、国内外の研究から明らかになっています。
海外では、多角的なアセスメントに基づいた個別教育計画や柔軟な学習機会の提供、心理的なサポートなどが進められています。日本国内でも少しずつ理解と取り組みは広がっていますが、公的な支援体制はまだ発展途上にあります。
保護者の方々が、この現象の背景にある可能性のある原因を理解し、子供の特性に寄り添いながら、家庭でのサポート、学校との建設的な連携、必要に応じた外部専門機関の活用を進めることが、子供が本来持っている才能を発揮し、健やかに成長していくために非常に重要となります。アンダーアチーブメントは克服可能な課題であり、適切な理解と支援があれば、子供たちは再び学びへの意欲を取り戻し、そのユニークな能力を開花させていくことができるのです。